日本のサソリ
当園では2023年10月21日(土)~12月24日(日)の期間中、「サソリ展」を開催しています。世界のサソリ約15種20匹が登場しており、解説パネルや写真で魅力的なサソリたちの世界に迫っています。
当園初開催の企画展で、見に来てくれる人がいるのか多少の不安はありましたが、すでに多くの方にご来園いただいており嬉しい限りです。
今回はサソリ展に合わせて、日本に生息するサソリについて紹介したいと思います。
日本にもいるサソリたち
サソリというと、砂漠に住んでいるというイメージを持つ方が多いかもしれません。もちろん砂漠に住むサソリもいるのですが、熱帯雨林のような湿潤な環境に生息するサソリもいます。実は日本にも2種類のサソリが分布していて、沖縄県や小笠原諸島などで観察することができます。それぞれ紹介していきます。
ヤエヤマサソリLiocheles australasiae
黒褐色をしたサソリで、大きさは成体でも指先にちょこんと乗る程度。日本では沖縄県の座間味島や宮古列島以南の島々に生息します。南西諸島では最もよく見るサソリです。
枯れた木の樹皮下などに生息しており、夜になると隙間から体を乗り出したり、外を出歩いたりしています。このサソリがいる朽ち木は他にもいろんな生きものが見つかることが多いので昆虫採集中に本種を見つけると「お」と嬉しくなります。
同じ場所に複数個体が潜んでいることも珍しくありません。危険性はほとんどなく、毒針が細いので万が一触れてしまっても大事には至りません。攻撃を仕掛けてくるどころか、ササササッと猛スピードで逃げていきます。
本種は日本ではオスが見つかっていません。ではどうやって殖えているかというと、メスはオスと交接することなく、単為生殖をして幼体を産みだします。ナナフシのような生態ですね。
本当にオスのヤエヤマサソリが日本にはいないのか?と常々思っていて、本種を見つけるたびにオスメスの判別をしていますが、これまで400個体以上確認していてすべてメス。幻のオスはまだ見つけることができていません。日本でオスを見つけることができたら大ニュース(生き物好きの世界では)です。
見た目は小さくてあまり強そうには見えませんが、これまでにゴキブリやムカデ、カミキリムシなど様々な生き物を捕まえて食べているのを観察しています。小さくても立派なハンターです。
マダラサソリIsometrus maculatus
ヤエヤマサソリの黒っぽい見た目とは違い、薄橙色の砂漠にいそうな見た目をしたサソリです。日本では宮古列島以南の島々と、小笠原諸島に生息しています。本種は乾燥した枯れ木の樹皮下やコンクリートブロックの隙間などで見つかります。森林内というよりも、海岸や公園などの乾き気味の場所でよく見ます。そういった場所が好きなのでしょう。
本種はキョクトウサソリ科というグループに属しています。このキョクトウサソリ科の全種は特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)における特定外来生物に指定されており、許可のない生きたままの移動や飼育などが禁止されています。
そのため、見つけたからといって捕獲して飼育をすることはできません。サソリ展でも、本種は写真の展示のみとなっています。
ヤエヤマサソリに比べると全体的に細長く、オスの触肢(ハサミ)や後腹部は非常に長くなります。メスはオスよりも触肢と後腹部が短いです。
ヤエヤマサソリよりも見つける機会が少なく、少数の個体をポツリポツリと目にする程度です。一度、石垣島で本種を探索しましたが、2時間ほどで5匹というなかなかに厳しい結果でした。
動きが早くて、刺激するとすぐに逃げてしまいます。
おわりに
日本に分布するサソリは今回紹介した2種のみです。
マダラサソリを見つけるのは苦労しますが、ヤエヤマサソリは個体数が多く、湿った枯れ木の樹皮下を覗けば簡単に見つけることができます。生息地を訪れた際はぜひ探してみてください。
その際、安易に触れると(特にマダラサソリ)刺されてしまうかもしれませんので注意してください。また、枯れ木の樹皮を剥がす際はその土地の持ち主に許可を得ることを推奨します。
「自分で見つけるのはちょっと難しいかも」という方はぜひ、サソリ展にお越しください。生きたヤエヤマサソリを展示中です。
普段の生活では目にすることが少ないサソリですが、その生態は魅力に溢れています。ぜひ野外でも展示でも、サソリという生き物に焦点を当てていただければ嬉しいです。
参考文献
河合上総, 2020. ヤエヤマサソリとマダラサソリ (クモ綱サソリ目) の波照間島からの記録. Fauna Ryukyuana, 56: 9–11.
河合上総, 2021. ヤエヤマサソリ Liocheles australasiae (Fabricius, 1775) の座間味島(中琉球)からの記録. Fauna Ryukyuana, 60: 21-24.