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アカエリトリバネアゲハを探して

はじめに

川辺で大きな蝶が集団で舞い、美しい模様をきらめかせる。子供の頃、なにかのテレビで見て以来、脳裏に焼き付いて離れないシーンです。

こんにちは、ゴキブリストしずまです。
普段はゴキブリについて話をすることが多い私ですが、興味の対象はゴキブリだけではなく、生き物全般です。普段から魅力的な生き物を追い求めて様々な場所を訪れています。
今回はマレーシア憧れの昆虫アカエリトリバネアゲハを探したときのお話を紹介しようと思います。

アカエリトリバネアゲハとは

アカエリトリバネアゲハTrogonoptera brookianaは頭の後ろにある赤い帯模様を持つことが名前の由来となった大型の蝶です。「鳥羽揚羽」の名の通り、まさに鳥のような大きな翅を持ちます。

アカエリトリバネアゲハはアカエリトリバネアゲハ属に属するチョウで、有名なメガネトリバネアゲハや世界最大のチョウ・アレクサンドラトリバネアゲハが属するトリバネアゲハ属とは別の仲間になりますが、「トリバネアゲハ」といった場合はこの2属をまとめて、もしくはここにキシタアゲハ属も加えたチョウを指すことが多いです。

アカエリトリバネアゲハはマレー半島、ボルネオ島などに分布しており、マレーシアでは国蝶に指定されています。マレーシア代表のチョウというわけです。
本種はオスの個体が河川にて集団で吸水をすることが知られています。

マレーシアのクアラ・ウォーで

2023年3月。私はマレーシアを訪れました。一番の目的は、危険を感じると臭いにおいを出す巨大なゴキブリ・オオニオイゴキブリをはじめとしたマレーシアに分布するゴキブリたちでしたが、その他にも出会ってみたい生き物がたくさんいます。その一つが、アカエリトリバネアゲハです。

クアラ・ウォーという場所にある川には温泉が湧いており、アカエリトリバネアゲハが吸水にくる有名なポイントとして知られています。多くの虫好きが訪れる場所で、私もいつか行きたいと思っていましたが、このマレーシア遠征でついに叶えることができました。
案内をしてくれていた友人が、本命のポイントに行く前にクアラ・ウォーに寄っていこうと提案してくれたのです。願ってもないチャンスに、喜んで同意しました。

しかし、天気はくもり。チョウの仲間は天候や時間帯によって活動するかどうかがシビアに決まるので、あまり状況がいいとは言えません。「もしかしたらいないかも」という不安を抱えながら、吸水が行われるポイントに向かいました。

クアラ・ウォーの河川
河川の近くにはアカエリトリバネアゲハの解説パネルがある

さぁ探そうか、と思っていると、近くを大きなチョウが飛んでいくのが見えました。アカエリトリバネアゲハです! 早速見つかりました。ただ、ひらひらと飛んで行ってしまい、十分に観察することはできませんでした。それでも、着いてすぐに活動しているのが分かったのは嬉しいです。

川に近づいてみると、湯気が立っています。ところどころから温泉が湧いているのです。
想像しているよりもかなりの量が湧いているようで、川にある大きな石も熱くなっていました。そばにいると、むわっとした熱が全身を襲います。

温泉が湧いている

川沿いを歩きながらアカエリトリバネアゲハを探します。大きな石を超えながら進んでいくと、アカエリトリバネアゲハの集団吸水を見つけました!

集団吸水するアカエリトリバネアゲハ

気づかれないように慎重に近づきつつ、撮影していきます。刺激しないように足音を抑え、背を低くして徐々に寄っていきます。あと1mほどのところまで寄ることができ、撮影のチャンスが訪れました。

翅を開いた瞬間を激写!

観察していると、吸水しながらおしりから水を排出しています。相当な量の水を吸って、必要な成分を吸収し、いらない水分を排出しているのでしょう。

排水の瞬間!
友人が撮影してくれたアカエリトリバネアゲハとの記念写真(撮影:外村康一郎)

吸水しているところは十分撮影できたので、一度本命のポイントに向けて移動しました。

後日。再度クアラ・ウォーを訪れることになりました。今度は飛翔中の写真撮影にチャレンジします。川のなかにある大きな石の上に乗り、カメラを構えて待ちます。下から来る温泉の熱と上から降り注ぐ太陽の熱でかなり暑さが厳しいですが、耐えて撮影を開始しました。

アカエリトリバネアゲハが近くを通りかかったところを連射し、確認。これを何度も繰り返しました。最初は暗くブレた写真ばかりでしたが、設定をいじり、よく飛んでくるルートがわかってきたことにより、だんだんといい写真が撮れてきました。

川の上を飛翔するアカエリトリバネアゲハ
集団で飛翔
ひらひらと優雅に飛びます

何度見ても美しいチョウです。ゆったりと飛ぶ姿には余裕のようなものも感じます。
先日たくさん撮影したにもかかわらず、この日も数百枚写真を撮影し、満足したところで引き上げました。

おわりに

子供のころから憧れていた光景を実際に見ることができ、大興奮の遠征でした。
世界には魅力的な昆虫が数えきれないほどいます。昆虫館ではそんな昆虫たちの魅力を伝えようと日々、奮闘しています。私が思うに、魅力を伝えるにはその魅力を知ることが欠かせません。そして魅力を知るには野外で生きる彼らを訪ね、実際に観察するのが一番です。
これからも様々な昆虫を訪ね、展示やこういった記事を通して、魅力を伝えていきたいと思っています。

おわりのおわりに

アカエリトリバネアゲハは竜洋昆虫自然観察公園こんちゅう館2階にも標本が展示されています。生きた状態が一番美しいのは言うまでもありませんが、標本でも十分にその美しさを感じることができます。マレーシアで撮影した写真も近いうちに一緒に展示したいと考えています。ご来園の際は、ぜひ注目してみてください。