憧れの生きものを食べた話in宮古島
宮古島で運命(?)の出会い
2023年3月。私は館長の北野さんと宮古島を訪れていました。目的は宮古島に住む生きもの探し。宮古島ならではの生きものを探して綺麗な海には目もくれず森で生きものを探します。
観察をはじめて2日目でカタツムリを中心にゴキブリ、フナムシなど様々な生きものを見ることができ、大分満足のいく結果となっていました。日程としては5日間あるので、余裕があります。
2日目の昼の生きもの観察を終え、夜の観察に備えて夕食をとることに。グーグルマップで調べて、海沿いにあるお店に行くことにしました。
青い建物の素敵なお店で、海の幸が食べられるようです。店先にはイセエビや夜光貝という名前も見えます。これは期待が高まります。
二人して店内に入ると、人気な店のようで席がかなり埋まっています。空いている席に案内され、何を食べようかと店内を見回すと、私の斜め後ろにあったホワイトボードに、先ほどのイセエビ、夜光貝に混じって、シャコガイの名もありました。シャコガイは食べたことないし食べてみたいな、なんて思っていると、リストの上のほうに「ゴシキエビ」の名前を見つけ、目を見開きました。
私は幼少期から生きものが好きで、野外で生きものを捕まえては飼育・観察していました。
生きものの世界は奥深く、毎日のように知らない生きものに出会います。何千種という生きものを知る中で、「いつか飼ってみたい!」と思う生きものが十数種おり、脳内でリストにしています。
カブトガニ、ゴウシュウキンイロゴキブリなどがリストされているこのリストの中で、トップクラスに飼ってみたい生きものがいます。それがゴシキエビなのです。
ゴシキエビとは
ゴシキエビPanulirus versicolorはイセエビ科イセエビ属に属する大型のエビです。所属から分かる通り、イセエビに近い仲間で、味もイセエビに似ているといわれます。暖かい海に住んでおり、日本だと沖縄県で多く漁獲されています。
「五色」の名が示す通り、体色は非常に鮮やかで、特に小さい頃は青と白のコントラストが美しく目を引きます。
憧れていたゴシキエビが食べられる。そんな夢のような機会に突然遭遇し、メニューを選ぶどころの話ではなくなってしまいます。ゴシキエビ、いったいいくらなのだろうか。
メニュー表にあるイセエビの値段を見て予想してみるも、イセエビより安いのか高いのか見当もつきません。これは聞いてみるしかありません。
店員さんに「ゴシキエビはいくらですか?」と聞いてみました。
「だいたい7,500~8,000円くらいですね。しっぽはお刺身で頭はお味噌汁で」
予想はしていたが高い・・・! 食べたいものの、さすがにうーんと悩んでしまいます。
「じゃあ僕は・・・マース煮定食で」
結局勇気が出ず、安定のマース煮定食を頼んでしまいました。
注文が終わった後も、ゴシキエビを頼むかどうか悩み続けます。この機会を逃したら次はないんじゃないか? いやでも8,000円は・・・でもその価値はあるぞ・・・
結局その日はマース煮定食を食べ終わってそのまま店を出ました。いつか値段を気にせず物が食べられるような人間になりたい、そう思いながら・・・・・・
同士の登場
翌日。この日から、三重に住んでいる友人が宮古島にきて生きもの探しを手伝ってくれることになっていました。池間空港で友人と合流し、車内で会話を交わします。
生きものの話をしている中で、ゴシキエビの話になりました。値段が高くて手が出せなかったこと、生簀を覗いたら大きなゴシキエビが見えたことを話すと、友人が「そのくらいなら出すよ」と思いもよらぬことを口にしたのです。
「え、奢ってくれんの?」
「いいよ」
気前の良さに驚きます。
彼と会う前、北野さんと「3人で割って食べればいいのでは?」という話をしていました。なのでわざとらしくゴシキエビの話をしたのですが、まさかこうなるとは思っていなかったので驚きです。
「まぁでも僕も少し出すよ」
なんとも嬉しいことに、あのゴシキエビを食べることができそうです。
興奮を抑えつつ、その日の生きもの観察に向かいました。
またのご来店を
夕方になって、ウキウキしながら先日の店を訪れます。駐車場に車を止めて、さぁゴシキエビに臨むか! というところで、店の前に「満席 またのご来店をお待ちしています」という表示が。おやおや?
友人に入れるか聞いてきてもらうと、今日はいっぱいだといいます。なんということでしょう。
今日を逃すと、宮古島で夕食を食べられるのは明日のみ。これは暗雲が立ち込めてきました。
別の店で夕食をとり、夜の観察に向かうも、私の頭の中はゴシキエビに支配されています。そうだ、明日の朝に電話して確認しよう。そう決意しました。
翌日。生きもの探しに出る前に、先日に店に電話をすることに。数コールで電話に出てくれました。本日はやっているか、夜に行ったら入れるかを聞いてみると、予約はできないが席が空いていれば入れるとのこと。とりあえずは安心です。夜が楽しみになりました。
ついに対面
昼の生きもの観察を終え、お店へ。もはやどちらが本命か分からなくなっています。
お店に入ると、初日と同様、席に案内してくれました。ホワイトボードにゴシキエビの名前もあります。
店員さんを呼んで、それぞれの定食(私はまたマース煮定食)と、念願のゴシキエビを注文しました。「僕たち生きものが好きなんですけど、捌く前に写真撮らせてもらってもいいですか」とお願いすると、快くOKしてくれました。
スマホを持って生簀の前に行くと、店員さんが網を持って生簀の底にいるゴシキエビを捕まえました。揚がってきたゴシキエビの鮮やかさに声がもれます。
迷惑にならないようスマホで数枚写真を撮ってお礼を告げて席に戻りました。
わくわくしながら待つこと十数分。ついにゴシキエビが運ばれてきました。
透き通った綺麗な身です。
刺身は三杯酢と醤油で食べるようです。箸を手に取り、刺身を手元のお皿に持ってきます。まずは三杯酢で食べてみることに。
口の中に入れて噛むと、シャキシャキしていて歯ごたえが抜群です。非常に柔らかく、口の中で繊維がほどけるような感じです。甘みは薄いですが、噛んでいると優しいうまみが出てきます。これは美味しい。醤油で食べてみてもおいしかったですが、私は三杯酢のほうがおいしく感じました。
刺身を食べながら話をしていると、店員さんが来て、お味噌汁にするということで頭の部分を回収していきました。少しして、味噌汁の登場です。先ほどまで鮮やかだったゴシキエビは真っ赤になっていました。
エビのうまみが強く出ていてとてもおいしいです。
定食を食べ終わり、刺身、味噌汁とゴシキエビを堪能し、ふぅと息をつきます。
いつか飼いたいと思っていたゴシキエビ。まさか先に食べる日が来るとは思いませんでしたが、想像以上に美味しい生きものなのだとわかりました。飼うときは大きな生簀でたくさん飼うのもいいかもしれないなぁ、と思いつつ、店を出ました。
今回の宮古島訪問では、様々な生きものに出会うことができ、展示・保全で活躍してくれる生体や写真を多く得ることができました。ただそれでも、「どの生きものが一番印象的だったか」と聞かれると、やはりゴシキエビと答えます。どこでどんな出会い方をするか分からないのが生きもの探しの面白いところ。全く予想していなかっただけに、出会った時の衝撃が一番大きかったのです。