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海辺に住む珍奇なコオロギ

現在、竜洋昆虫自然観察公園では『鳴く虫展』を開催中です。30種ほどの鳴く虫が大集合して企画展示室で鳴きまくっており、大変賑やかな企画展となっています。
そのなかの「鳴きそうだけど鳴かない虫」コーナーに私が採集・繁殖させたダイトウウミコオロギCaconemobius daitoensisがいます。

実はこのダイトウウミコオロギ、飼育展示している場所は他にないのではないかというほどなかなか見ることができない虫なのですが、マニアックすぎてあまり注目されていません
「あのダイトウウミコオロギですよ!」
と展示を見ているお客さん一人一人にアピールしたいところですが、そうはいきません。どうにかダイトウウミコオロギをアピールしたい!ということで、今回の記事で採集記風に紹介することにしました。例のごとくまたゴキブリじゃない記事ですがご容赦ください。

南大東島と大東諸島

2022年11月、私は南大東島を訪れました。
南大東島を含む大東諸島は沖縄本島から東に約340km離れた場所にあります。有人島としては北大東島と南大東島の2島があり、沖縄本島からフェリーや飛行機でアクセスが可能です。

大東諸島のゴキブリはどんな種がいるのか詳しくわかっておらず、私が南大東島を訪れたのはその調査が目的でした。北大東島と南大東島の両方を行く計画も立ててみたのですが、都合が合わず、まずは南大東島を調査することにしました。

 飛行機から見える南大東島

海に住むコオロギ

大東諸島には多くの固有種、固有亜種が生息しています。ダイトウウミコオロギもそのうちの一種。成虫になっても翅を持たず、コオロギと名がつくのに鳴かず、岩礁に住むという変わった生態から、以前から気になっていた昆虫でした。

南大東島での調査の合間を縫って本種も見つけられないかと考え、同行者と共に下調べをして、ダイトウウミコオロギが生息していそうな岩礁を訪れてみることにしました。できれば採集を行い、飼育して観察や繁殖にもチャレンジしてみたいところです。

日が暮れてから、目星をつけていた場所に向かいました。ライトを使って海しぶきの当たる岩礁を見ていきます。ダイトウウミコオロギがいないかじーっと探してみますが、なかなか見つかりません。『日本産直翅類標準図鑑(加納ら 2016)』には「12月に採集例がある」と書かれていることから、11月の現在もある程度育った幼虫が見つかるのではないかと考えていました。

 岩礁でダイトウウミコオロギを探す同行者

根気よく探すこと数分。岩礁の窪みで何かが動いているのを見つけました。長い触角に目立つ後ろ肢。ダイトウウミコオロギです!

窪みに身をひそめるダイトウウミコオロギ
 広い場所に誘導して撮影

写真を撮ったあと、捕獲にチャレンジします。岩の窪みが邪魔で、なかなか捕まえることができず苦戦します。体が柔らかいため、無理やりつまんでしまうと弱らせてしまう可能性があるので注意が必要です。そのため、捕獲には洗濯ネットを使用しました。洗濯ネットを広げてダイトウウミコオロギを誘導して自分からネットに入ってもらう作戦です。

傷つけないように慎重に誘導し、もう少しの所で入るというところで後ろから刺激すると、ピョンと洗濯ネットの中に入りました。
ついにダイトウウミコオロギを捕獲です。大きさは10mmほど。触覚に比べて体が小さいです。
どうにか捕まえることができて喜びが溢れます。

ただ、繁殖を目指すならば5~10匹は採集したいところ。1匹採集するのにこんなにかかっていては夜が明けてしまいます。
その後も同行者と採集を続けましたが、見つけることができても捕獲が難しく、数匹の追加でその日は終了となりました。

見つけた! ウミコオロギ天国

2日後。また海岸にやってきました。あたりは真っ暗で、今回もライトを使ってダイトウウミコオロギを探します。
この場所では前回よりも見つからず、他の生きものを採集しながら探索を続けます。

少し飽きてきたな、というタイミングで海から少し離れたところに側溝があることに気づきました。何かいないか見てみると、なんとダイトウウミコオロギが側溝の側面にたくさんついているではありませんか!

興奮して同行者と採集に乗り出しますが、持ち前のジャンプ力で逃げてしまい、そう簡単には捕まりません。あっちにいったこっちにいったを繰り返し、時間をかけて少しずつ採集し、20匹ほど捕獲することができました。

採集できたダイトウウミコオロギは持ち帰り、当園で飼育を行いました。熱帯魚のエサを与えるとよく食べ、活発に活動する姿が観察できました。野外でもこのような匂いの強いエサを使ったトラップを用いれば簡単に捕獲できるかもしれませんね。

 熱帯魚のエサを食べるダイトウウミコオロギ

繁殖も成功し、常時多数の個体を維持することができました。そして企画展『鳴く虫展』での展示に繋がり、2023年9月に初お目見えとなりました。

白バックで撮影したダイトウウミコオロギ

煌びやかな虫というわけではありませんが、独特の見た目やちょこまかとした動きは見ていて飽きません。『鳴く虫展』に来られた際は、ぜひダイトウウミコオロギを観察してみてください。ただ、ずっと見ていても鳴くことはないのでご注意を。

南大東島の夕焼け

引用文献
加納康嗣・河合正人・市川顕彦・冨永修・村井貴史, 2016. バッタ目. 日本直翅類学会 (編) , 日本産直翅類標準図鑑. Pp. 242-371, 学研プラス, 東京.