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りゅうこんで見た「モズのはやにえ」

 1月はじめに撮影した、冬の桜です。
春が待ち遠しいですね。

はい、見つかりましたか?
よく見ると、枝に何かが刺さっています。

アップします。

左のあたりです。

カエルです。
ニホンアマガエルが枝に刺さっていました。

これが今回紹介する【モズのはやにえ】です。
モズは、捕らえた獲物を木の枝やとげに刺しておく「はやにえ」という習性をもちます。

当園では土日祝日に野外公園をスタッフが案内して回る「ガイドウォーク」というイベントをやっていますが、この時も冬の自然観察ポイントの一つとして、毎回みんなとはやにえを探します。
見つかると驚きの声が上がりますし、はやにえの事を知識としては知っていても実際に見たのは初めてという方も多いです。

今回は、これまで当園で発見された「モズのはやにえ」(の一部)をご紹介。
カエル以外にもいろんな生き物がはやにえにされていて、
過去10年間の写真を探ったら、30以上のはやにえ画像が発掘されました。

毎年はやにえを探していますが、今でも見つける度に感動してしまいます。小さな虫を小さな枝に刺すという繊細な行為をモズがやったのか!という驚きもありますし、
はやにえを通して、その地域に生息している生き物のことを知ることもできます。

なにより、こんなにいろんな生き物を見つけてくるモズの虫探し能力の高さを見せつけられ、尊敬の眼差しを禁じ得ません。
「モズのはやにえ」は見た目のインパクトだけでなく、いろんな驚きや感動を教えてくれます。
その一端をお伝えし、これを読んだ方が野外ではやにえを見つけて感動する機会が増えることを願っています。 


「モズのはやにえ」とは

 まず「モズ」とは何かご存知でしょうか。

モズ(かっこいい)

これです。虫ではなく、鳥です。
スズメ目モズ科モズ属のモズ。
スズメより一回りぐらい大きいです。

 全国に分布する身近な鳥で、古くは万葉集の和歌や小林一茶の俳句にも登場。
最近だと(最近でもないか)、はやにえの習性が漫画『HUNTER×HUNTER』でも描かれていましたよね。
(キメラアントのラモットがモズの特徴をもち、なんとウマっぽいでかい動物をはやにえにしていました。ついでにこの場をお借りして、連載再開を心よりお祈り申し上げます。)

当園でも主に秋〜冬に見ることができます。
秋に「ギジギジギジ ギュン ギュン」と木のてっぺんなどに留まって鳴く「高鳴き」が聞こえたり、
枝先に留まって長い尾羽をひょこひょこと上下に動かし、こっちを見てたりします。

そして「はやにえ」とは、くり返しになってしまいますが
捕らえた獲物を木の枝やとげに刺しておくモズの習性を「はやにえ」といいます。 

「はやにえ」は漢字で書くと「早贄」(「速贄」とも)。
「初物の供え物」の意味があり、モズが捕まえた獲物を「お供え」しているように見えることから「モズの早贄」となったとも言われています。 

なぜ「はやにえ」をするのか?

これについては諸説あるものの、はっきりとした理由はわかっていませんでした。

獲物の少ない冬のためにエサをとっておく「保存食説」、
獲物を枝にひっかけてちぎって食べて「結果的に残った説」、
他にも「なわばりアピール説」や「本能だから特に意味なんてない説」などなどさまざまな理由が考えられていましたが、どれも確証はないというふわっとした感じでした。

しかし、2019年、
はやにえの機能を解明した論文が発表され、大変話題になりました。

この研究ではまず、はやにえの消費量が真冬の1月に多いことから「冬の保存食」として機能していることを示しています。

さらに、1月と同じく寒いはずの2月はあまりはやにえが消費されないこと、はやにえを消費したオスの方がメスにアピールする鳴き声(さえずり)が上手にできるようになっていることまでも示し、
はやにえが生き残るための「冬の保存食」としてだけでなく、オスがメスにアピールするため「性的魅力をアップさせる栄養食」としても機能していることを明らかにしました。

 虫などの獲物が捕れなくなる冬に備え、まだ捕れる秋のうちにはやにえをせっせと作っておき、
メスにアピールする繁殖期の2月に備えて、その直前の1月にはやにえを食べてエネルギーを蓄える
ということです。

つまりはやにえは、獲物を刺して終わりではなく、ちゃんと後から食べるためにとってある。
たしかにはやにえを観察していると、時々なくなってたりします。
子どもたちが触ってとれちゃってたのかと思ってましたが、モズが食べているのでしょう。
(子どもたちがとってるのもあるかもしれません。他の生き物がはやにえを食べる例もあります。)

 はやにえは、モズが生き残るため、子孫を残すために必要な行動です。
生き物に無意味な行動ってほとんどないんだなーと改めて感動してしまいます。
時々はやにえについて「残酷」という表現を見かけることがありますが、
決してそうではないことをも証明したという点も、感動してしまうポイントです(研究ってすごい!)。

 あと、モズが自分ではやにえの場所を覚えてるってのもすごいですよね。
僕だったら忘れてしまってエサにありつけず、メスにモテない自信があります。
人も記念日を忘れないとか、好きな食べ物を覚えていてさらりとあげるとか、モテるためには記憶力が大事ですもんね。
僕だったら忘れてしまって…(以下、略)。

当園で見られた「はやにえ」たち

 では、いよいよ当園の野外公園で発見されたはやにえを紹介していきます。個人的に「驚いた順ベスト10」です。
よく見られるものから始まり、だんだんと驚きが大きくなっていくイメージです。

第10位

ニホンアマガエル

冒頭にも紹介しましたが、周りが田んぼだからかアマガエルがめっちゃいます。
なのではやにえとしてもよく見つけられます。

第9位

コバネイナゴ

こちらも多く生息しているからか、多く見つかります。

第8位

カメムシ(ミナミアオカメムシ?)

背中側から刺さってることが多い気がします。
はねがびゃっと広がってることもあり、小さいながらも派手な印象。

第7位

ムカデ(おそらくトビズムカデ)

ムカデ自体がちょっと枝っぽいので、見つけるのが少しむずかしい気がしています。
ミミズも同様。

第6位

ケラ

地面の下にトンネルを掘って暮らすケラ。
ケラは空を飛んだり、地上を歩くこともあるので、きっとそこを狙ったのだと予想してます。

第5位

アメリカザリガニ

水辺に生息するザリガニ。浅瀬や陸地にいるところを狙われたのでしょうか。
ガイドウォーク中に発見。硬いのによく刺せたなぁ。

第4位

カニ(おそらくアカテガニ)

同じく水辺に生息するカニ。アカテガニっぽい。
きれいに残っていましたが、刺し方もなんだか美しいです。

第3位

ニホンカナヘビ

やられたばっかりだったみたいで、なんだかそっと眠っているようにも見えました。
よく見たら、刺さってました。

第2位

ハラビロカマキリ

最初生きたカマキリかと思ったら、はやにえで驚きました。
当園ではカマキリのはやにえはあまり見られません。

第1位

カブトムシの幼虫

これはビビりました。最初何かわかんなかった。
カブトムシの幼虫を土の中以外で見ることってあまりないですよね。

このように実にさまざまな生き物がモズのはやにえにされています。
当園で見つかったものだけでも20種以上。
それも昆虫だけでなく、ミミズやムカデ、カエル、カナヘビ、カニまで!
この他にも当園では、ミミズやヒメクダマキモドキ、エンマコオロギ、オンブバッタなんかも見つかっています。
(当園以外でも調べてみると、小鳥やカヤネズミ、アブラコウモリまでもがはやにえにされた記録があります。)

はやにえにされた生き物もさまざまですが、その生き物の生息場所もさまざま。
ケラやカブトムシの幼虫は地中にいるし、ザリガニやカニは水中にいるはず。

それでもモズは獲物を見つけ出して、はやにえにしているのです。
モズのような虫を見つけるいい眼を持ちたいものです。

おわりに 〜今季いちばんの衝撃はやにえ〜

先日お休みの日に川沿いを散歩していたときに見つけた、個人的に衝撃だったはやにえを最後に紹介して終わりにしたいと思います。
当園では見たことがなかったやつです。

魚(モツゴ?)

まさかの魚!これは驚きました。
ほんと、どうやって捕ったんだろ。

カワセミ… じゃなかった
モズ、すごい!


参考文献
 青木雄司, 2014. モズのはやにえになったアブラコウモリ. BINOS, 21: 31-32.
 真木広造・大西敏一・五百澤日丸, 2014. 決定版日本の野鳥650. 平凡社
 Nishida Y & Takagi M. 2019. Male bull-headed shrikes use food caches to improve their condition-dependent song performance and pairing success. Animal Behaviour, 152: 29-37.
 野本康太, 2016. おすすめモズのはやにえ探し. 自然保護, 554: 22-23.