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それでも虫はそこにいる。~身近なマイナー昆虫紹介~

僕の仕事は、昆虫を「伝える」こと。

昆虫館の展示やイベント、掲示物作り、
小学校への出張授業や講演会、
本の執筆、かるたやカレンダー制作、オムシJAPANの監督、
そして、このnoteの記事も。

形は違えど、基本的にはどれも昆虫を「伝える」ということに他なりません。
これまでに仕事を通じていろんな昆虫を伝えてきました。

夏の代名詞で大人気の カブトムシ
虫とり網でとれると歓喜が訪れる ギンヤンマ
毒針をもつ危険昆虫 スズメバチ
臭いにおいを出す カメムシ
身近すぎて嫌われがちな ゴキブリ

昆虫館や本やテレビなどで紹介される昆虫は
やはり人気や季節感があったり、何かしらの特徴があったりするものがほとんど。

当園では毎年いろんな企画展をやっていますが
これまでにもさまざまな昆虫(と昆虫以外の生き物やテーマ)についての企画展を行ってきました。

2023年開催「りゅうこん きかくてん展」。歴代の企画展を紹介する企画展の企画展でした。

しかし、これまであまり伝えてこなかった昆虫もいます。

人気がなかったり、
地味だったり、
知名度が低かったり、
見た目が普通だったり、
別にこれといった特徴がなかったり。

企画展で扱われることも、普通に展示されることもほとんどなく、
まして本の表紙や虫トークの話題にもほとんど出てこない。

そんなあまり注目されることのない、マイナーな昆虫たち。

僕の仕事は、昆虫を「伝える」こと。

このようなマイナーな昆虫たちを、
僕はいつ「伝える」ことができるのか。

それが、今です!

本当に自由に書いていいって言われているこのnoteであれば、
そんなに好かれてるわけでもない、興味もあまり持たれていない虫を出しまくったとしても
たぶん怒られたり、入園者が激減するようなこともないはず…たぶん。

まあでも一方で、
普段はあまり紹介されることの少ないマイナーな昆虫の存在を知ってもらってこそ、
昆虫の最大の特徴とも言える「多様性」を実感しやすかったりするんじゃなかろうか
とも思っていたりします。

とにかく、このようなわけで今回は
知名度もなく、人気もなく、めずらしくもない、
身近なマイナー昆虫を紹介します。

ぶっちゃけますと
「マイナーな虫を紹介して、一体誰が読むんだろう」
と僕自身がまさに今、大きな不安を抱きながら書いています。

でも、ほんのちょっとでも興味が湧いたり、こんな虫いるんだとふり向いてくれる人がいたら
もうこの記事は大成功だということして、筆を進めることとします!

なお、それぞれの種の解説は短くなりそうです。
だって、あんまり特徴ないんだもの。
あらかじめご了承ください。


①ユミアシゴミムシダマシ

ユミアシゴミムシダマシ

カブトムシとりに夜の森に行きますよね?
そうすると、このユミアシゴミムシダマシが木にとまってたりしてて、
慣れてないと一瞬クワガタかと勘違いしてがっかりします。

決して森の中じゃなくてもそのへんの身近な公園で、木があればついてるときもある。
昆虫館で「これなんですか?」って聞かれて「ユミアシゴミムシダマシです」と答えると
「それなんですか?」ってもう一回聞かれるみたいなことも時々あります。

そもそもゴミムシダマシの仲間はけっこうこうなりがちで、
同じゴミムシダマシの仲間のキマワリもこんな感じになります。
ただキマワリは「ほんとに木の周りにいるね」と、もう少し話題が続きます。

木の周りによくいるキマワリ

ユミアシゴミムシダマシ、つかむとほんのり臭いです。

②ホソハリカメムシ

ホソハリカメムシ

草むらで飛び回ってる茶色いカメムシ。
ハリカメムシとヒメハリカメムシっていうそっくりカメムシがいますが
りゅうこんではホソハリカメムシが多く見つかります。

カメムシだけど、たぶん臭くないのではないか。
っていうかこれまで臭いかどうか、ちゃんと確かめてこなかったなと反省しているところです(今度確かめておきます)。

ネットで検索するとだいたい一文字違いの「ホソヘリカメムシ」が出てくるので、
混同しないようお気をつけください。

ホソヘリカメムシ

ホソヘリカメムシは幼虫がアリそっくりだったり、大豆の害虫だったり特徴ありまくりなので
マイナーとは決して言えません。

③シバスズ

シバスズ

ちっちゃいコオロギ。
公園の草むらとかに普通いるけど、ちっちゃいのであまり見られていない気がする。
一応ジーーってよく鳴いてるけど、ちっちゃいのであまり気づかれていない気がする。

あしがまだら模様の似た種にマダラスズがいます。こちらも身近。

マダラスズ

シバスズよりマダラスズの方がちょっとだけ特徴あるよね。まだら模様。

④ヒメクダマキモドキ

葉の上のヒメクダマキモドキ

ツユムシの仲間なんだけど、そもそもツユムシがマイナーでしょうか。

セスジツユムシ

当園にはヒメクダマキモドキとサトクダマキモドキがいて、
サトクダマキモドキはけっこうでかい。
木からたまに飛び立つと「なんだあれは!」と若干はしゃぎます。

葉の上のサトクダマキモドキ

もうちょっと山にはヤマクダマキモドキがいて
南西諸島にはダイトウクダマキモドキがいます。

ヒメクダマキモドキは木の葉っぱを食べてたり、幼虫もよく見かけたりしますが
動きも早くないし、捕まえても噛み付いてもこないし、鳴き声もか細く、存在感薄めです。

「クダマキ」とはクツワムシのことらしく、クツワムシに似ているといういみで
「クダマキモドキ」という名前になっているとか。

ヒメクダマキモドキ。
名前だけ聞いたら、昆虫だとは決して思われなさそうです。

⑤サビキコリ

サビキコリ

おそらくもっとも目にするコメツキムシの一種。

コメツキムシは知っている人も多いと思います。
ひっくり返ると死んだふりをして、頭(正確には前胸より上)を勢いよく地面に打ち付け
その反動でパチンっという音と共に跳ね上がる
というめちゃくちゃ特徴のある有名メジャー昆虫です。

ヒゲコメツキのオス。オスの触角がフサフサでとっても「ヒゲ」。

サビキコリはなんと、コメツキムシなのにひっくり返っても全然跳ねません。
死んだふりはよくするけど、そこからただ動かないだけ。
跳ねるのかもしれないけど、僕は見たことがありません。コメツキなのに。

そもそも名前もなんで「○○コメツキ」じゃないんでしょうか。
跳ねないからですかね。
「サビ」はまだ錆色っぽい由来が想像できますが、「キコリ」ってなんでしょう。

よく樹液や夜の外灯にも集まってきたりしていますが
サビキコリを見る度に「なぜキコリ…」と小さくつぶやいてしまいます。

いつの日か「パチンっ」と音を立てて跳ね上がる姿を見るべく、
サビキコリと出会う度にひっくり返してみたいと思います。

おわりに

絶妙な知名度、かつ、身近で出会える5種を選んだつもりでしたが
知ってたり、見たことのあった昆虫はいたでしょうか。

どんだけ特徴がないとか、人気がないとか言っても
それは人の(今回は僕の)勝手な解釈。

人がどう思おうが、
それでも虫はそこにいる。

人がどう思おうと、
虫たちは今日もかまわず生きています。

今回はマイナーとはいえ、身近なところで出会いやすい昆虫を選びました。
ぜひ今日紹介した昆虫に出会った暁には、
「出たな!キミのことは聞いているよ。よろしくね」
と挨拶でもしながら、じっくり観察してみてください。

そんなふうに昆虫を見て、出会いを重ねていくと
どの昆虫も特徴がないなんてことはなく、
どの昆虫も美しく、
どの昆虫も興味深い生き方をしていることに気がつくはず
です。

人気がないとか、特徴がないとかいろいろ言ってしまいましたが、
本心としては

知れば、きっと、どの昆虫もおもしろい。

僕はそう確信しています。