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雌雄モザイクのゴキブリ

左右で色の違うゴキブリ

2021年8月のある日、家でゴキブリの本を読んでいると、ゴキブリを飼育している知人からメッセージがありました。

「はじめて体が2色になりました」という言葉と、マダガスカルゴキブリの写真が1枚送られてきています。その個体は体の中心を境に左右で色が違います。見た瞬間、「雌雄モザイクだ!」と思いました。

今回は当園にやってきた雌雄モザイクのゴキブリについてお話をしようと思います。 


オスとメス両方の特徴を持つ

雌雄モザイク個体とは、体の半分がオス、もう半分がメスというように、1個体にオスの特徴を持つ部分とメスの特徴を持つ部分がある個体のことです。遺伝子異常などが原因で、稀に出現します。

先ほど例に挙げたように体の真ん中でくっきりとオスメスが分かれる個体もいれば、不規則にオスメスが混在するタイプも出現します。チョウやクワガタでは何度か見たことがありましたが、ゴキブリでは見たことが無く、スマホを持つ手が震えました。
 
知人にこの個体は雌雄モザイクではないかと伝え、裏側の写真を送っていただくと、やはり裏も左右で模様が違うようです。ゴキブリは腹部の先端を見るとオスメス判別ができるのですが、この個体の腹部の先端は複雑で、左右でオスとメスそれぞれの特徴があり、やはり雌雄モザイクであると考えられました。

興奮していると、なんと、譲ってくださるとのこと。
後日昆虫館に持ってきてくださるということになり、楽しみにその日が来るのを待ちました。
 
後日、出勤すると、雌雄モザイクのマダガスカルゴキブリが届いていました。私が不在にしていたので、館長が代わりに受け取ってくれていました。早速撮影と観察を進めていきます。

雌雄モザイクのマダガスカルゴキブリ(Gromphadorhina portentosaと思われる)。すごい。

体を観察

まず、真上から見てみると腹部がはっきりと2色に分かれています。マダガスカルゴキブリは体色に個体差があり、色にオスメスはほとんど関係ありません。腹端部をみると、ゴキブリを背面から見た時に右がオス、左がメスであることが分かりました。

雌雄モザイク個体の腹部

また、マダガスカルゴキブリはオスの触角に長い毛がありフサフサしているのが特徴です(メスにも毛はありますがオスほど長くありません)。この点も、左右でオスメスが分かれているようでした。ただ、前胸背板は左右で変化が無く、全体的にオスの特徴を持っているようです。図にするとこんな感じで分かれているようでした。

△写真3. オスメスの分布△

完全に真ん中で分かれているわけではないようです。

私は以前、クワガタの雌雄モザイク個体を展示したことがあり、その時によく聞かれたのが「繁殖可能かどうか」です。これは個体によって差があるのですが、今回の個体は恐らく体の中の交尾器などもオスとメスが混じっている状態が予想されるため、交尾や産卵(産仔)をすることは難しいと考えられます。
そのため、この個体は単独で飼育を行いました。少し飼育してみて弱っている様子や異常な行動などもないことから、展示を行うことにしました。
 
最初はすぐに死んでしまうのではないかと予想していましたが、2年ほど生きた後、徐々に動かなくなり死亡しました。現在は貴重な資料として乾燥標本にして保管しています。

写真4. 雌雄モザイク個体の白バック写真


マダガスカルゴキブリの他にも

マダガスカルゴキブリの他にも、トルキスタンゴキブリPeriplaneta lateralisの雌雄モザイクを2度いただいたことがあります。トルキスタンゴキブリはオスメスで体が大きく違い、オスは長い翅を持ち淡い橙色で、メスは短い翅を持ち暗い褐色です。
そのため、どこがオスでどこがメスなのか判別しやすいです

 トルキスタンゴキブリの雌雄(通常個体)
 こちらの個体はほとんどがメスですが、部分的にオスの特徴が出ています。
 こちらは逆にほとんどがオスですが一部メスの特徴が出ています。

このような個体は採集や飼育を数年に渡って行っていてもなかなか出会うことはできないため、ご提供いただけることは大変うれしいです。貴重な資料となるため、死亡後も標本として保存し、後世に残せるよう保管しています。

次回のゴキブリ展では雌雄モザイクのゴキブリについても取り扱いたいと思っておりますので、ぜひお楽しみに!