カイコの飼育方法
竜洋昆虫自然観察公園では毎年、春から夏にかけてカイコの飼育展示を行なっています。また、観察日記や自由研究の題材としてカイコを飼育したい方向けに、カイコとクワの葉の提供を行なっています※。
こんちゅう館でも飼育解説をしており、常に相談もお受けしていますが、よりわかりやすくカイコについて知っていただけるように、今回はカイコの基本と飼い方をご紹介します。
※こんちゅう館に直接来られる方への提供です。郵送などは行なっておりません。
カイコの基本
カイコって?
カイコはクワコという昆虫を元に人間が作り出した昆虫であると考えられています。そのため、いくら林や山を探しても野生のカイコはいません。
様々な品種がいて、卵、幼虫、繭などの色や形は多様です。日本では一般的に、白い幼虫・白い繭の品種が飼育されています。
カイコの体
カイコはガの仲間です。幼虫時はイモムシ状の体形です。カイコの幼虫は移動能力が低く、エサを求めて遠くまで移動するといったことをしません。また、枝などにくっつく力も弱く、枝葉に乗せても少しすると落っこちてしまいます。
成虫になると翅を持ちますが、飛ぶことはできません。また、成虫はエサを食べないので、成虫になった後はエサや水分は不要です。
カイコの一生
カイコを飼育するためには、カイコの一生を知ることが大切です。次の画像に日本でよく飼育されている品種(春麗×鐘月)の一生をまとめてみました。
卵から生まれたカイコ(1齢幼虫、毛が目立つので毛蚕、黒くて小さくアリのようなので蟻蚕ともいいます)は、合計4回の脱皮を行い、5齢幼虫(最後の齢なので終齢、熟したカイコということで熟蚕ともいいます)になった後、繭を作ってその中で蛹になります。その後成虫になると、繭に穴を開けて出てきて交尾・産卵を行い、一生を終えます。
夏休み少し前に観察を始めれば、卵から成虫まで一生を通して観察が可能です。
いざ、カイコの飼育
用意するもの
カイコを飼いたい!と思った時は、まず、飼育するために必要なものを揃えましょう。
カイコのエサ
カイコはクワという植物の葉を食べます。他の植物も口にはするのですが、吐きだしてしまったり、弱ってしまったりするので与えないようにしましょう。
クワの葉は河川敷や野山に生えています。葉の形は様々で、これだけで見分けることはできません。初夏には赤~黒の実をつけますので、これを頼りに探しておくと安心です。クワにもいくつか種類があり、主にマグワとヤマグワが見つかります。カイコはこのどちらも食べます。
葉や枝を切ると、白い乳液が出てくるのも特徴です。小学校の校庭に植えられていることも多いので、学校の先生に聞いてみるのもいいでしょう。カイコは新鮮なクワの葉を好み、少し乾燥するだけで食べなくなってしまいます。カイコを飼育する際はこのクワの葉をどこで得るかがとても重要です。
家の近くにない時は、クワの葉を多めに取って、ビニール袋に入れて封をし、冷蔵庫の野菜室に入れておくと一週間ほど保存できます。また、シルクメイトという人工飼料も開発されており、ネットなどで購入できますが、一度クワの葉を食べた幼虫は人工飼料を食べないので注意が必要です。
温度と湿度
飼育する温度は20~30℃、湿度は70~80%ほどを維持しましょう。それぞれの齢に適した温度と湿度がありますが、一般の家庭で温度や湿度をコントロールするのは難しいので、上の温湿度の範囲で飼育するようにしましょう。
カイコを置く場所
カイコは太陽の光とエアコンの風が当たらない室内に置くようにしましょう。あまり急激な温度変化がなく、風通しのいい場所がおすすめです。多くのお家であれば玄関や廊下などが適しています。
飼育のための準備とカイコの様子確認
まず、カイコの飼育を行なうときはカイコの病気予防のためにしっかりと手を石鹸で洗います。その後よく手を拭き、作業を行います。カイコを飼育するケースなども、アルコールで消毒しておくとより安心です。
カイコは脱皮の前に「眠」という状態になります。この時期、幼虫は上体を上げ動きません。そして幼虫の頭の後ろに、脱皮後の新しい頭が見えています。この時期に動かしてしまうと弱ってしまうので、飼育作業の前にカイコが眠の状態じゃないか確認しましょう。
眠の状態のカイコを根気よく観察していると、脱皮の様子も見ることができます。眠の状態のカイコはエサを食べないので、眠になっていたら脱皮をするまでそっとしておきましょう。
カイコの飼育(1齢~3齢)
1齢~3齢の時期を稚蚕期といいます。この時期はカイコが小さく、弱りやすいので扱いに注意が必要です。
この時期は湿度が重要なので、プラスチック製のお弁当箱等に湿らせた脱脂綿やキッチンペーパーを入れ、その上にパラフィン紙かサランラップを敷き、この上にカイコの幼虫を乗せます。卵から生まれたての幼虫は手でつまむと弱ってしまうので、筆に乗っけるようにして移動させるといいでしょう。
クワは5~10mmほどに刻んだものを朝夕の2回与えます。カイコは上に行く習性があるので、クワはカイコの上に置きます。入れるクワの量はカイコの成長に合わせて変えましょう。次のエサやりの時、前にあげたクワが少し残っているくらいがいいでしょう。
朝か夕方、エサをあげて少ししてから、残ったエサやフンを取り除きます(画像は朝になっていますが、夕方でも大丈夫です)。新しいエサごとカイコを移動して掃除をするといいでしょう。
カイコの飼育(4齢~5齢)
4~5齢の時期を壮蚕期といいます。小さかったカイコもこの時期になると大きくなり、クワの葉をたくさん食べます。この時期は食べるクワの量やフンの量が多くなり、湿度が高くなりすぎることがあるので、蓋のないトレーまたは通気性のいい虫かご(蓋の部分が網になっているタイプ)などで飼育するといいでしょう。蓋が無くても、逃げ出していくことはありません。
ケースにキッチンペーパーや新聞紙を敷き、ここにカイコを乗せます。適当に千切ったクワまたはクワの葉そのままを朝夕の2回与えます。与える量は稚蚕期と同様、カイコの成長に合わせましょう。
朝か夕方、エサをあげて少ししてから、残ったエサやフンを取り除きます(画像は朝になっていますが、夕方でも大丈夫です)。新しいエサごとカイコを移動して掃除をするといいでしょう。
カイコの飼育(5齢から繭)
5齢幼虫になって少しすると、カイコの幼虫は繭になる準備をします。体が透き通ってきて、水分の多いフンをするようになります。また、クワの葉から離れてケースを歩き回り、糸を吐き始めます。こうなったら繭を作るための足場となる蔟をケースに入れてあげましょう。蔟はトイレットペーパーの芯で作ることができます。
このほか、厚紙を山折り谷折りにして波型を作り、これを蔟にすることもできます。
蔟が用意できたら、繭を作る準備が整ったカイコを蔟に乗せてあげます。すると自分でいいところを見つけ、繭づくりを始めます。繭の完成には数日かかります。
繭はそのまま安置しておけば、8~14日ほどで成虫が羽化します。
カイコの飼育(成虫から卵)
成虫はオスメスが揃っていればすぐに交尾をします。そのままにしておくとなかなか離れないので、1時間ほどしたらオスとメスを手で掴み、やさしくゆっくりと捻ると離すことができます。これを割愛といいます。割愛ができたら、厚紙の上などにメスを置くと、産卵を開始します。1匹のメスが500卵ほど産卵します。
卵は最初黄色いですが、だんだんと黒くなります。この卵は冬を超えてから孵化する卵です。12月くらいまで常温で管理した後、湿度を保ったケースに卵を入れ、冷蔵庫で保管します。次の年の春~秋になったら冷蔵庫から卵を出してくると、8~12日ほどで孵化します。飼育をしたい時期に合わせて卵を出しましょう。黄色いままの卵は、冬越しをせず孵化します。
楽しく学びのある飼育を!
今回はカイコの飼育について紹介しました。繭を使った実験や工作についてはまた別の記事でご紹介したいと思います。
生き物を飼育し観察することはたくさんの発見と面白さに溢れています。クワの葉が用意できる+飼ってみたい!という方はぜひチャレンジしてみてください。
参考文献
・伴野豊・塩見邦博, 2019. カイコの生活環と飼育. 日本蚕糸学会(監修), カイコの実験単 : カイコで生命科学をまるごと理解!: 20-37. NTS, 東京.
・伴野豊, 2023. カイコバイオリソース辞典. 九州大学大学院農学研究院附属遺伝子資源開発研究センター家蚕遺伝子開発分野, 福岡.