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全国の昆虫館が磐田に集まった日~“全昆連”とは何か~

先日、全国の昆虫館関係者がここ磐田市・当園に集まる会議が開催されました。

その名も
「令和6年度 全国昆虫施設連絡協議会」

「全国昆虫施設連絡協議会」とは、
全国の昆虫館施設が飼育や展示方法などの活動について情報交換をし、研究をする組織。
略称「全昆連」。当園も加盟しています。

全昆連では年に一度、加盟している昆虫館施設の代表者が一同に介し、総会、研究協議、矢島賞受賞式、記念講演、情報交換会、施設見学等が行われます。

そう。つまりこれは、昆虫館界における

“レヴェリー”

世界会議(レヴェリー)

4年に一度、世界政府加盟国の王達や政府の要人らが聖地マリージョアに集い、7日間に渡って行われる大会議。加盟国の中から代表50ヶ国の王達が一堂に会し、世界中の由々しき案件を言及・討議し、今後の世界の「指針」を決定する。ただし、各国の首脳はいずれも癖が非常に強く、国によって貧富や宗教が異なるため、やりとりはうまく進まないことが多い。また、世界中の首脳が集まるため、些細な争い事も戦争のきっかけとなる。議長は毎回、持ち回りになっている。(後略)

Wikipedia|ONE PIECEの用語一覧 #世界会議 (レヴェリー)

はい、『ワンピース』ですね(たとえが大げさですね)。
若干ネタバレを含むので引用元のリンクは貼りません。
各自調べるように。もしくは『ワンピース』を読み進めるように。

この“レヴェリー”的な昆虫館の全国会議みたいな集まりが
つい先日、磐田市・当園で開催されたというわけです。

昆虫館関係者の集まりなので、一般の方には公開されていませんが
ただ別に社会の裏で暗躍する秘密組織ってわけでもありません。

ということで今回は

せっかくなのでここらで一発、この「“全昆連”とは何なのか」を
つい先日当園で行われた総会の様子とともに紹介しちゃおう!

という試みです。

昆虫館の人たちが年に一度集まって一体何をしているのか?
赤裸々に暴露したいと思います。

(全国の昆虫館の皆さま、どうかお許しください)


全昆連とは

「全国昆虫施設連絡協議会」とは何なのか。

先ほどちらっと紹介しましたが、もう少し詳しく紹介しますと

全国昆虫施設連絡協議会は、昆虫の飼育や展示の方法、施設の運営や教育普及的な活動等について情報交換し研究する組織です。1990年に多摩動物公園園長などを歴任した矢島稔氏が中心となり設立され、北海道から与那国島まで全国22の昆虫施設で構成されています(事務局:東京都多摩動物公園 昆虫園)。

全国昆虫施設連絡協議会 2021

そして矢島先生のお言葉も拝借いたしますと

 「全国昆虫施設連絡協議会」を創設するために一九九〇年七月にその時に開設していた施設に私がよびかけ、第一回総会を多摩動物公園で開いた。
(中略)
 協議会では過去一年間における展示内容やイベントの紹介をはじめ、飼育法や食草の供給法又は人工飼料の開発についての工夫などを発表し、より良い改善に努めている。

矢島 2012

ということです。

全昆連は昆虫館同士の横のつながりであり、切磋琢磨し合う仲間のような存在でもあります。
当園スタッフも他の昆虫館で持ち回りで開催されるこの総会に毎年参加してきましたが、今年度の総会はついに当園で初開催となりました。

全昆連 in 磐田スタート(1日目)

今年度の全昆連総会は11/20(水)・21(木)の2日間、磐田市・当園にて行われました。
1日目は総会、記念講演、研究協議、そして夜には情報交換会(懇親会)も開催。
参加者は全国の昆虫館から集まった30名以上。

会場は今年できたばかりの磐田商工会議所。

美しく、快適。会議室としての設備も完璧。磐田駅から徒歩10分とアクセスもよし

開会式では、全昆連会長の多摩動物公園 渡部園長のご挨拶、開催地代表としてりゅうこん館長 北野さんの挨拶に続き、磐田市長にもご挨拶をいただきました。

草地市長と記念撮影

また、この日は私“こんちゅうクン”が残念ながら出席できませんでしたが
こんちゅうクンの弟子“うめごりクン”は朝から登場。
よく見ると写真の一番左で立ってるのは“こんちゅうクン”ではなく“うめごりクン”です。
来場された全国の昆虫館の皆さんにこんちゅうクンと勘違いされる場面も多く見られました。

※「うめごりクンって誰?」って方はこちらをご覧ください↓
https://www.city.iwata.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/011/061/kodomo5_3.pdf

そして次に矢島賞受賞式
前年度の研究協議の中から優れた発表に送られる「矢島賞」。
今年は伊丹市昆虫館が奨励賞を受賞されました。

ちなみにこの矢島賞、当園はこれまでに3回受賞。
そのうち2回はゴキブリストこと柳澤さんがゴキブリ関連の発表でいただいておりまして、その際の記念の盾が実は当園のとあるアイス販売ケースの上の壁に飾ってあります。
何の説明もなくてごめんなさいですが、、、
今度来た時にぜひ見て「これが矢島賞か!」となってみてください。

当園で飾られている矢島賞の盾。しつこいようですが、アイスの上です。

続く記念講演はふじのくに地球環境史ミュージアム 教授 岸本年郎 先生。
せっかく全国の昆虫館が集まる機会なので、静岡が誇るミュージアムと静岡の昆虫についてご講演いただきました(めっちゃおもしろかった!)。

岸本先生による記念講演『ふじのくに地球環境史ミュージアムの10年と静岡の昆虫相』

そしていよいよ各施設からの研究発表。今年は9施設から9演題の発表がありました。
濃厚かつ幅広い発表が次々に繰り広げられましたが、ここではタイトルのみご紹介。

  1. 大型甲虫の展示手法について(群馬県立ぐんま昆虫の森)

  2. ドイツ型標本箱を用いた生体展示の作り方(伊丹市昆虫館)

  3. 生体・標本展示以外の展示物ができるまで(広島市森林公園こんちゅう館)

  4. ICE国際昆虫学会議におけるシンポジウム発表・展示・販売の鼎立(昆虫食TAKEO)

  5. 生物園におけるミュージアムショップの戦略的な運営方法(足立区生物園)

  6. 昆虫情報誌を発行しよう!公開しよう!(橿原市昆虫館・佐用町昆虫館)

  7. バイオパークにおける教育普及活動の新たな取組(長崎バイオパーク)

  8. 専門学校と協力して実施するゲンジボタルの流れの環境整備(多摩動物公園)

  9. 10年間で起きた様々な変化(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)

昆虫館に関わる専門的な発表ばかりですが、タイトルを眺めるだけでも昆虫館業務の幅広さ、そして昆虫館自体の多様性も感じられるのではないでしょうか。
昆虫館のプロによる発表ですから、同業者として勉強になる情報満載、かつ、めっちゃおもしろい、かつ、エキサイティングなものばかりです!

発表する北野さん。スライドはゴキブリストの説明場面。

これらの発表は翌年に『昆虫園研究』という冊子にまとめられ、発行されます。

そして、夜には情報交換会(懇親会)が行われました。

会場の醍醐荘で参加者のみなさんを仁王立ちで待ち受けるこんちゅうクン

昼間の研究協議も重要ですが、夜の懇親会での交流もとっても有意義。
途中、りゅうこんらしく「じゃんけん大会」も行われ(当園Instagram参照)、全国の皆さまにじゃんけんがいかに楽しいものかを味わっていただけたように思います。

施設見学(2日目)

2日目は施設見学。
翌朝、りゅうこんに行く前に桶ヶ谷沼に寄りました。
もちろんベッコウトンボの生息地だからです。

ベッコウトンボは種の保存法にも指定されている絶滅危惧種であり、磐田市の「市の昆虫」でもあります。

磐田市の「市の花」と「市の木」と「市の昆虫」。磐田市内の所々にこの看板がありますが、この写真は豊田町駅のもの。

磐田市が「トンボのまち」であるのは、もちろんこのベッコウトンボがいて、その貴重な生息地・桶ヶ谷沼があるからですので、全国の昆虫館の皆さまに桶ヶ谷沼をお見せしないわけにはいかないのです。

桶ヶ谷沼ビジターセンターに着くと、なんとセンター長の“オッケーくんが”登場!
ベッコウトンボおよび桶ヶ谷沼について、丁寧に解説してくださいました。

オッケーくん。トンボのことからなぜ「桶」なのかまで、丁寧に解説いただきました。

※「オッケーくんって誰?」って方はこちらをご覧ください↓
https://www.city.iwata.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/010/922/01_2205_koho_iwata_PDF/p25.pdf

桶ヶ谷沼を視察する皆さん
ちゃんとトンボユニで視察をアテンドするこんちゅうクン
(※捕虫網をもっていますが、桶ヶ谷沼は採集禁止なので採ってはいません。飾りです。)

そして、桶ヶ谷沼視察後はついに我が昆虫館、磐田市竜洋昆虫自然観察公園に到着。
実は、ここがけっこう緊張の瞬間でして、なにしろ全国の昆虫館のプロフェッショナル達に見ていただくわけですから。ドキドキしますよね。

りゅうこんを視察する皆さん

ありがたいことに多数の施設展示等についてのご意見をいただき、とても貴重な機会となりました。
昆虫館をよりよいものへと変化させ、皆さんに還元できればと思っています。

ドイツ型標本箱の生体展示

ちなみに最近当園に急に登場したこの標本箱の展示は、この日に伊丹市昆虫館からまるごといただいたものなのでした(1日目の研究協議②で紹介されたもの)。
コクゾウムシ、キイロヒメアリなどの小さな昆虫が5種もこの1箱で見ることのできる最高の展示となっています。虫眼鏡でぜひ覗き込んでみてください。

おわりに

このような形で無事、令和6年度 全国昆虫施設連絡協議会が終了いたしました。
来年はなんと、与那国島のアヤミハビル館、再来年はなんとなんと、北海道の丸瀬布昆虫生態館での開催が決まっています。本当に全国津々浦々の全昆連です。

全昆連に加盟している昆虫館施設(正会員)は22施設。
加盟してない昆虫館ももちろんありますので、昆虫館はもっとあります。
動物園や水族館に比べれば数が少なく、もしかしたら虫が好きじゃないとなかなか行く機会はないかもしれません。

しかし、あえてお願いしたい。

ぜひ昆虫館へ行ってみてください。

昆虫館には昆虫を愛し、昆虫館の運営や展示に情熱を注ぎまくるちょっと変わったスタッフが必ずいて、昆虫を通して皆さんに自然や環境、身近な生き物のおもしろさをビシバシと伝えてくるはずです。
今回そんなスタッフの皆さんとたくさんお会いでき、当園スタッフも大いなる刺激をいただきまくりました。
そして、改めて思ったわけです。昆虫館っておもしろいなと。

こんなおもしろい昆虫館に行かないなんてもったいない。
ぜひお近くの昆虫館にお立ち寄りください。

最後に、全昆連を立ち上げた矢島稔先生のお言葉をもう一つ。

私が若いスタッフに望みたいのは今後ますます日常生活の中に生きものや自然とかけ離れる生活が展開されるに違いない。そこで感性の豊かな幼児や少年に受け止められ面白いと思ってもらえるイベントやニュースを流し一人でも多くの人に自然や生きものに興味をもってもらえる事を話し、実物を見せ、観察の大切さを体験できるような昆虫館にしてもらいたい。

矢島 2012


“全昆連”とは何か

この矢島先生の願いに応えるべく、
日々研究し、努力し、協力し合う昆虫館の組織です。


参考:全国昆虫施設連絡協議会 加盟施設一覧(2024年7月1日現在)

【正会員】(22施設)

  1. 丸瀬布昆虫生態館

  2. ふくしま森の科学体験センター ムシテックワールド

  3. アクアマリンいなわしろカワセミ水族館

  4. つくば市立豊里ゆかりの森昆虫館

  5. 栃木県井頭公園花ちょう遊館

  6. 群馬県立 ぐんま昆虫の森

  7. 足立区生物園

  8. 多摩動物公園 昆虫園

  9. 胎内昆虫の家

  10. 石川県ふれあい昆虫館

  11. 北杜市オオムラサキセンター

  12. 佐久平ハイウェイオアシス「パラダ」平尾山公園昆虫体験学習館

  13. 磐田市竜洋昆虫自然観察公園

  14. 箕面公園昆虫館

  15. 伊丹市昆虫館

  16. 佐用町昆虫館

  17. 橿原市昆虫館

  18. 広島市森林公園こんちゅう館

  19. 平戸市たびら昆虫自然園

  20. 長崎バイオパーク

  21. 大淀川学習館

  22. アヤミハビル館

【準会員】(4団体)

  1. 株式会社自然教育研究センター

  2. 株式会社エイコー科学

  3. アース製薬株式会社

  4. TAKEO株式会社


引用文献
全国昆虫施設連絡協議会, 2021. 昆虫館はスゴイ!. repicbook
矢島稔, 2012. 日本の昆虫館 戦前と戦後のあゆみ. 東海大学出版会