見出し画像

秋の夜、ただひたすら虫を見た。

2024年9月30日。

「もう明日から10月か。」

『オムシのことば 2024CALENDAR』10月はオオカマキリでした。

カレンダーは月末にめくるタイプ。一通り9を10にし終えたところで、ふとちょっとした違和感を覚えた。

「なんか忘れてる気がする。」

何かを確実に忘れているんだけど、その「何か」を思い出せないやつ。たまにある。

月末はやることが多い。
請求書をまとめたり、スタッフの勤怠情報をまとめたり、売上報告をしたり。こんちゅうクンである前に一会社員であることを毎月末に思い知らされるのだ。
多忙な月末の業務の一つを忘れているのかもしれない。きっとそのうち思い出すだろう。

そんなことより、今問題なのは「9月が今日で終わってしまう」ってことだ。

まだ暑いけど、夏どころか秋もすぐに終わってしまうだろう。
冬が来れば今いるたくさんの虫たちは姿を消し、来年まで会えなくなってしまう。

急に寂しくなってきた。
こうしちゃおれん。早く虫たちに会いに行かなくては。

もはや自分の忘れていた「何か」とは、「虫との出会い」だったんじゃないかとさえ思えてきた。

そんなわけで9月最終日、僕は「ただ虫に会いたい」という目的のために夜な夜なフィールドへと出かけていったのだった。

僕の忘れていた「何か」が、まさかあんなことだったとは。
この時の僕はまだ、実はちょっと気が付きつつあったけど、頑張って気が付きもしないのだった。


ROUND1 河川敷

まずやってきたのは自宅近くの河川敷。

だだっ広い草むらが広がり、バッタやカマキリ、コオロギなどポピュラーな虫との出会いが期待される。夜風がだいぶ涼しいが、果たして虫たちは動いているのだろうか。さあ、出でよ!虫たちよ!!

ナナホシテントウ

いた。すぐいた。ナナホシテントウは夏は「夏眠」して活動しないので、久々に会った気がする。そして、夏は確かに終わったのだとテントウムシから感じたりもする。

トノサマバッタ

河川敷といえばこの虫でしょう。だだっ広い草原を飛び回る大きなバッタ。昼間だと近づいただけで跳ねて飛んであっという間に遠くへと逃げていくが、夜はただじっと草にとまっていた。よく見ると片あしがない。きっと何かに襲われ、自ら切断し生き残ったんだろう。

マダラバッタ

河川敷でいちばん見たのがこのバッタ。他のバッタよりも夜でも近づくとぴょんぴょん飛んで存在感抜群だった。よく見るけど知名度はとても低い。マダラバッタの知名度向上に一役買いたい。

カマキリ(チョウセンカマキリ)

オスもメスもいた。オオカマキリやハラビロカマキリは見当たらず、数匹カマキリを見たが全部カマキリ(チョウセンカマキリ)だった。胸にオレンジ色があるのが特徴。夜に会うカマキリは眼が黒い。

オオハサミムシ

おしりにハサミが付いてるハサミムシ。いつもりゅうこんではヒゲジロハサミムシばかり見るので、なんだか新鮮。そして、すごくかっこいいじゃないか。芝生でも路上でも夜だからかいろんなところを歩き回っていて、ダンゴムシを食べている場面も観察できた。

セスジスズメ

はねに筋の入るスズメガの仲間。クズの葉にとまって羽ばたいていて、しばらく見てたらパッと飛び立っていった。幼虫はこの時期よく見るんだよなと思ったら、幼虫もいた。

セスジスズメ若齢幼虫

上の幼虫は何かに寄生されていたようで、寄生者(寄生蜂?)の繭が見られる。

ウラナミシジミ

夜はガの方が圧倒的に活動的だが、チョウもいた。活動はせず、じっとしている姿が目立つ。ウラナミシジミは秋によく見るチョウで、この時期いろんなところで観察可能。ちょこんとある尾状突起がかわいらしい。夜は動かないので見つけられば写真は撮りやすい。

ROUND2 公園

物足りぬ。けっこういたけど、物足りぬ。
さらなる虫との出会いを求めて少し場所を変えてみる。池も木も草むらもある公園へ。河川敷とはまた違った環境なので、さっきとは違う虫が見られることを期待して。さあ、もっと出でよ虫っ!!

シブイロカヤキリ

早速違うやついた。クビキリギス同様、成虫で冬を越し、春の夜によく鳴くキリギリスの仲間。クビキリギスは口が赤いが、シブイロカヤキリは口っていうか顔が黒い。

シブイロカヤキリの顏

捕まえたら見ずにはいられないナイス顏。

マツムシ

「あれマツムシがないている チンチロチンチロチンチロリン」のマツムシ。まさにチンチロリン♪最中のオスを発見。鳴き声は河川敷でも聞こえていたが、姿をようやく見ることができた。草刈り直後だったようで観察がしやすかった。

ツチイナゴ

クビキリギス、シブイロカヤキリ同様、成虫で冬を越すタイプ。成虫は茶色一色だけど、幼虫は緑が多い。眼から涙を流しているような模様が特徴的。

ツチイナゴ幼虫

ほとんど成虫だったけどたまに幼虫もいた。

オオヒラタシデムシ

シデムシとは「死出虫」と書き、動物や虫などの死体を食べる虫。オオヒラタシデムシはいちばん身近と言えるシデムシの代表種。草むらを何匹か歩いていて、何か(たぶん死体)をむしゃむしゃ食べていた。

フクラスズメ幼虫

フクラスズメというガの幼虫。フクラスズメはスズメガ科ではなく(まして鳥のスズメ科でもなく)ヤガ科。毒はないので触ることも可能。うまく触って怒らせると頭をぶんぶん振り回して、しかも緑色の液体を口から出して威嚇してくるのだけど、今回触ってみたら一瞬で下へと飛び降りていってしまった。なんか、ごめん。

ROUND3 山

けっこういい感じに虫と出会えてきたけれど、なんかこうグッとくるやつというか、もうちょっと血沸き肉躍る出会いが欲しい。ということで10月になってしまったけれど翌日も昆虫観察へ出かけてみた。さらなる虫との出会いを求めて、今度は山へ。夏はカブトムシやクワガタムシがいるような雑木林だが、秋は虫いかにっ!!

コクワガタ(メスをガード中のオス)

すぐクワガタいた。なんならコクワガタに会いに来たと言っても過言ではなかったので大変うれしい。樹液がすっごいたくさん出てるクヌギの木があって、そこに1ペアどころか数匹いた。夏はカブトムシや他の大型クワガタムシに追いやられてしまうかもしれないが、もう彼らはいない。今こそコクワガタの時期かもしれない。

オオスズメバチ

樹液で気をつけなければならないのがスズメバチ。この時は2匹のオオスズメバチがずーっといて、しきりに樹液を舐めたり、他の虫を追い払ったりしていた。秋はスズメバチの数が増え、もっとも危険な季節。この時もこの2匹のスズメバチを常に気にしながらの観察を強いられることとなった。

※スズメバチを見かけたら、近づかないように。

トビズムカデ

樹液を観察していたら巨大トビズムカデがスルスルと降りてきて樹液を舐め始めた。

そこに近づくオオスズメバチ
さらに近づくオオスズメバチ
もっと近づくオオスズメバチ

次の瞬間、オオスズメバチがトビズムカデにばしっと一撃!

すぐに逃げていくトビズムカデ

攻撃の瞬間は撮れず。無念。
でも、迫力満点の争いだった!

ハラビロカマキリ(何か食べてる)

樹液には樹液を食べる虫だけでなく、その樹液に集まる虫を狙ってカマキリも来ていた。1本の木に2匹ハラビロカマキリがいた。そのうちの1匹はすでに獲物を捕食中で、ずっとむしゃむしゃと食べてた。

ヒメカマキリ

しばらく樹液を観察していて、ふと見上げた細い枝に小さなカマキリがいることに気がついた。ヒメカマキリだ!りゅうこんにはいないカマキリなので思わず声を上げる(一人で)。この子も樹液に集まる虫を狙っていたのだろうか。

ヒメカマキリ(もうちょいアップで)

嬉しかったのでもう1枚。小さいけどかっこいいカマキリ。

オオゾウムシ

こちらも最初気が付かなかったのだけど、よく見たら樹皮そっくりの模様をしたオオゾウムシが樹液に長い口を突っ込んで食事をしていた。ゾウムシの中ではかなり大きい方で、やはり存在感がある。飼育すると長生きで今も1年以上飼っている子がいるのだけど、飼育個体は体色がどんどん黒ずんで地味になる。野生個体のこのような美しい色と模様は久々に見た。

カネタタキ(左がオス、右がメス)

樹上はもちろん、りゅうこんでは郵便受けの中で郵便物にくっついて出てくることも多いカネタタキ。小さな声で「チン チン チン」と鐘を叩くように鳴く。今回はその小さなカネタタキが1枚の葉上で向かい合っていた。オスとメスだから、まさに求愛の真っ只中だ。なに、この距離感。時々オスが体を動かしてメスにアピールしているようだった。こっちがなんだかドキドキと緊張してしまった。

フクラスズメ

昨日公園で触って飛び降りさせてしまったフクラスズメの幼虫。今度はその成虫が樹液に数多く集まっていた。よく見たら口吻がけっこう長い。そして、樹液を飲みながらおしっこもしているようで、何回かかけられた。成虫越冬するので真冬に昆虫館の建物付近で見かけることもあるのだが、樹液に集まる姿はとても活発で印象が変わった。

ボクトウガ幼虫

今回ROUND3で紹介したこの虫たちは、ほとんどこの1本のクヌギの木にいた。もちろん樹液に集まってきているわけだが、この樹液を出しているのがこのボクトウガの幼虫。樹液に集まる虫を観察していたら、樹皮の裏からひょこっと顔を出す幼虫に気がついた。

ボクトウガの幼虫は樹皮の裏の穴の中に住んでいて、樹皮を削って樹液を出し、その樹液に集まる虫をなんと食べる‼ 捕食性のガの幼虫なのだ。頑張って観察してみたけど、残念ながら捕食シーンは見られなかった。ただ、しきりに頭を動かしてもぞもぞしていた。樹皮をかじって樹液を出していたのかもしれない。

この木だけで3匹のボクトウガ幼虫がいたが、この樹液に集まる虫は3匹どころじゃない虫たちで溢れかえっていた。あなたが夏に見た樹液のそばにも、このボクトウガの幼虫が潜んでいたかもしれない。

まとめ

秋の夜、2日間で30種以上の虫に出会った。
よかった。まだ虫はいる。けっこういる。

当たり前だけど、環境が違えば見られる虫も違った。「所変われば“虫”変わる」。河川敷、公園、山の雑木林。今回は3箇所だったけど、場所が変われば環境が変わり、出会える虫も変わっていった。

もちろんどこにでもいた虫もいる。ツチイナゴとか3箇所で見つかったし、ジョロウグモもどこでもとても目立った。

嬉しかったのは、予想していない虫との出会いがあったことだ。

コクワガタはいるだろうと思っていたけど、まさかオオゾウムシやヒメカマキリ、ボクトウガにまで会えるとは。
特に今回はターゲットも決めずにふわっと出かけたものだから、余計にサプライズな出会いが多く、嬉しい気持ちになった。

今回ご紹介したのは見つけた虫のほんの一部。
エンマコオロギ、カヤコオロギ、マツムシモドキ、チュウゴクアミガサハゴロモ、ホタルガ、タイワントビナナフシ、アシマダラゾウムシ、クロゴキブリなどなど、もっともっとたくさんいた。

まだまだ虫が見られる季節。ぜひみなさんもまずは身近な場所で虫を探し、虫との出会いを楽しんでみてください。

おわりに 〜僕が忘れていた「何か」〜

冒頭でお伝えした通り、僕は「何か」を忘れていた。

たしかに今回とりあえず虫を探しに行ったことで、最近あまり感じていなかった虫探しの楽しさ、予期せぬ虫との出会いの嬉しさを思い出すことができたと思う。

しかし、僕が忘れていたのは、別のものだった。

実はちょっともう気がついていたりしていた。半ば確信犯的に思い出さないようにしていた感じすらある。

僕が忘れていた「何か」とは。もうあなたもお気づきしれませんね。

そう、それは、


このnoteの原稿締切。

完全に忘れておりました。9/30が公開日なのに、9/30に何にもやっていないことに気がついて、やばいって思いながら、ついつい虫探しに行ってしまいました。

毎月15日と30日更新なのに、こんなわけで更新が遅れています。

誠に申し訳ございませんでした。
以後気をつけてまいりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。

でもまあ、おかげさまでなんとか今回も記事が書けました。本当にけっこう楽しかったので、ぜひまだまだ昆虫観察してみてください。夜の観察やスズメバチ観察は危険もありますので、どうかお気をつけください。

身近な自然や昆虫をふらりと見に行く楽しみと、あと、締切を守る大切さが少しでも伝わりましたら幸いです。